現代ではスピリチュアルや占いの延長線上で「呪術」という言葉が軽く扱われがちだが、本来の呪術は“因果をねじ曲げて何かを取り戻す行為”であり、代償なく成立することはない。今回は、古い寺院で発見された記録をもとに、呪術の実態とそこに潜む危険性を解説する。
目次
1 発端となった黒いノート
物語の中心となるのは、山奥の廃寺で発見された一冊の黒いノートだ。表紙には墨で「返」と一文字だけ書かれており、内部には乱れた筆跡で呪術らしき記述が残されていた。ノートの持ち主は、数週間前に仲間から金を騙し取られた大学生。怒りと失望を抱えた彼は、インターネットの噂を辿り、独学で呪術の研究に没頭し始めた。
ノートの前半は呪術の理論研究だが、後半にかけて筆跡は乱れ、ページの角は焦げ、紙には赤黒い染みが広がっていた。何かに取り憑かれたかのように、同じ単語が何度も繰り返されている。
「失われたものは、必ず“返る”。 ただし、返り方は選べない。」
2 呪術の原理:「返し」の法則
ノートによれば、この呪術は「対象から奪われたものを強制的に返させる」ものだという。しかし、代償の記述は曖昧だ。
呪術には、以下のような“返し”の法則が書かれていた。
- 術者が受けた損失と同等の“痛み”が対象に返る
- 返されるモノや結果は術者が指定できない
- 返りは対象と術者、双方に作用する可能性がある
- 術式の発動後、対価は必ず回収される
つまり、呪術とは一方的に相手へ復讐する手段ではなく、「双方向の因果反動」を呼び起こす危険な儀式だ。ノートの中にも、術者自身が苦痛に耐えられなくなる可能性について何度も言及されている。
3 術式完成の直後に起きた異変
ノートの最後のページには、術式を完成させた日の記録が残されていた。
「成功。 相手は失った以上の痛みを返す。 しかし、返りが自分にも及ぶ気配がある。 胸が重い。視界が揺れる。音が遠い。」
その翌日、捜索隊は山中で二つの遺体を発見した。一つはノートの持ち主である学生本人、そしてもう一つは学生を騙した仲間の男だった。
男の遺体は奇妙な姿勢で硬直しており、まるで何かから逃げようとしたまま動きを止めたようだった。学生の手には黒い灰がこびりつき、周囲には焼け焦げた紙片が散乱していた。
警察の調査では、火気の使用跡は一切見つからず、自然発火の形跡もない。ただ、どちらの遺体も「目に強い恐怖反応」を示したまま硬直していたとだけ報告されている。
4 呪術の本当の恐怖は“術者側”にある
呪術に関する誤解の多くは、「呪われるのは相手だけ」という発想だ。しかし、伝承や古文書の多くが示すのは逆である。
呪術の恐怖は、術者自身に返る“反動”だ。
- 憎しみを利用する術は、術者の精神を最も蝕む
- 返される“結果”は術者の期待と一致しない
- 完了後、術者は必ず代償を支払う
今回の廃寺での事件は、その典型例だと言える。学生が奪われた金は返っていない。それどころか、彼自身が“別の何か”を返されてしまったように見える。
ノートにあった最後のメモは、こう結ばれていた。
「返ってきたのは自分だった。 気づいた時には、もう席が入れ替わっていた。」
この一文の意味は、今も不明のままだ。
5 呪術を扱うべきではない理由
今回の事例を踏まえ、呪術を扱う危険性をあらためて整理すると以下の通りだ。
- 意図しない“返り”が術者本人に及ぶ
- 因果の改変は収束するまで予測不能
- 喪失の痛みを基盤とする術は、精神を破壊する
- 一度発動した呪術は取り消せない
つまり、呪術は「願いを叶える手段」ではなく「傷を拡大させる装置」に近い。人の憎悪や後悔と相性が良いため、扱えば扱うほど呪術側が優位に立つ構造になっている。
人が作り出した“祈り”の逆側にあるもの、それが呪術だ。

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