夜空に見えている星や銀河は、宇宙全体から見るとわずか約5%にすぎないとされています。残りの約27%が「ダークマター(暗黒物質)」、約68%が「ダークエネルギー」という、正体不明の成分です。
本記事では、
- なぜ「見えない成分」が必要だと分かったのか
- ダークマターとダークエネルギーは何が違うのか
- Euclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡など最新プロジェクトで何が分かりつつあるのか
を、一般の宇宙ファン向けにやさしく整理します。
目次
- 1. 結論(要点)
- 2. 宇宙の「95%問題」:何がどれくらいあるのか
- 3. ダークマターとは:見えない「重さ」の正体候補
- 4. ダークエネルギーとは:宇宙を加速膨張させるもの
- 5. 見えないものをどう測る?観測プロジェクト最前線
- 6. これから10〜20年でどこまで分かりそうか
- 7. まとめ:宇宙像はどう変わる?
- 8. 関連記事(宇宙シリーズ)
- 9. 出典・参考リンク
1. 結論(要点)
最初にポイントだけ押さえると、現状の理解は次のようなイメージです。
- 現在主流の宇宙モデル(ΛCDM宇宙論)では、宇宙はおおよそ
- 普通の物質(星・ガス・惑星など):約5%
- ダークマター(見えない「重さ」):約27%
- ダークエネルギー(加速膨張の原因):約68%
- ダークマターは光らないが、重力だけは働く「見えない質量」として、銀河の回転や重力レンズ効果などから存在が強く示唆されている。
- ダークエネルギーは、宇宙膨張を加速させている原因と考えられる「重力と逆向きに働く何か」。中身はほぼ分かっていない。
- どちらも直接「検出」されたわけではなく、多数の観測を一番うまく説明できる仮説として採用されている段階。
- Euclid宇宙望遠鏡やDESIなどの最新プロジェクトにより、2030年代までに
- ダークマターがどのように宇宙の大規模構造(コズミックウェブ)を形作っているか
- ダークエネルギーの強さが時間とともに変化しているのか
要するに、「存在はほぼ確実だが、正体は依然として大きなナゾ」というのが、ダークマターとダークエネルギーの現在地です。
2. 宇宙の「95%問題」:何がどれくらいあるのか
宇宙全体の中身は、「重さ(エネルギー密度)」の観点からかなり精度よく見積もられています。
宇宙背景放射(CMB)の揺らぎや、銀河がどのように分布しているかといった観測を総合すると、宇宙はおおむね次の比率で構成されます。
- 普通の物質(バリオン):約5%
- 星・惑星・ガス・塵・人間の身体も含め、「見える物質」のほぼすべて。
- ダークマター:約27%
- 光らないが重力は働く物質。銀河や銀河団を引き寄せ、宇宙の「骨組み」を作っていると考えられている。
- ダークエネルギー:約68%
- 宇宙の膨張を加速させている正体不明のエネルギー成分。
つまり、「教科書に載っている粒子(素粒子)の世界」は宇宙全体の5%しか説明しておらず、残り95%は“暗黒の世界”というのが現在の標準像です。
3. ダークマターとは:見えない「重さ」の正体候補
3-1. なぜ“見えない質量”が必要なのか
ダークマターの存在が議論されるようになったのは、「見えている物質だけでは重力が足りない」現象があちこちで観測されたからです。代表的な証拠は次の通りです。
- 銀河の回転曲線
銀河の外側の星ほど、もっとゆっくり回っているはずなのに、実際には「ほぼ一定の速さ」で回っています。見えている星やガスだけでは、その高速回転を支えるだけの重力が説明できません。 - 銀河団の運動と重力レンズ
銀河団(銀河の大集団)全体の重さを、銀河の動きや背景光のゆがみ(重力レンズ)から見積もると、見えているガスや星の数倍以上の質量が必要になります。 - 宇宙背景放射(CMB)の揺らぎ
ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景には、ごく小さな温度ムラがあり、そのパターンを解析すると、「見えない質量」がなければ現在の宇宙構造が作れないことが分かります。
こうした独立した観測が、どれも「見えていない質量が大量にある」と指し示しているため、ダークマターはかなり確度の高い仮説と見なされています。
3-2. 候補:未知の粒子か、それとも重力理論の修正か
ダークマターの正体については、大きく分けて2つの系統の仮説があります。
- 未知の粒子説(WIMP・アクシオンなど)
- 電磁波とほとんど相互作用しないが、質量と重力は持つ粒子が宇宙に大量にある、という考え方。
- 弱く相互作用する大質量粒子(WIMP)や、超軽量粒子アクシオンなどが候補で、大型地下検出器や加速器、天体観測で探索が続いています。
- 重力理論の修正説(修正ニュートン力学・修正重力)
- そもそも「重力の法則が大規模なスケールで少し違うのではないか」と考える立場。
- MOND(修正ニュートン力学)やf(R)重力など、多数のモデルがありますが、CMBや銀河団のレンズ効果まで一括で説明するのは難しいという問題が残っています。
現時点では、「未知の粒子としてのダークマター+アインシュタイン重力」を前提にしたΛCDMモデルが、観測との整合性という点で最も成功しているとされています。
4. ダークエネルギーとは:宇宙を加速膨張させるもの
4-1. 加速膨張はどうやって分かったのか
1990年代後半、遠方のIa型超新星を多数観測した結果、宇宙の膨張が加速していることが分かりました。もし単に「重力だけ」が働いていれば、膨張速度はだんだん遅くなるはずです。しかし観測された明るさと距離の関係は、「むしろ広がるスピードが上がっている」ことを示していました。
この「加速」を説明するために導入されたのがダークエネルギーです。
4-2. 何がどのくらいあるのか
ダークエネルギーは、非常に希薄で均一に広がるエネルギーで、
- 宇宙全体のエネルギー密度の約68〜70%を占める
- 重力とは逆向きに働き、空間の膨張を押し広げる
ものとして振る舞うと考えられています。
ただし、その正体については、
- 真空のエネルギー(宇宙定数)
- 時間とともに強さが変わる「ダイナミカルな場」(クインテッセンスなど)
- 巨大スケールでの重力理論の修正
など、いくつもの可能性が残っており、まだ決着はついていません。最近のDESIの解析では、ダークエネルギーの強さが時間とともにわずかに変化している可能性を示唆する結果も出ており、「完全な宇宙定数とは限らないのでは」という議論も活発です。
5. 見えないものをどう測る?観測プロジェクト最前線
ダークマターもダークエネルギーも、「直接見ること」はできません。代わりに、宇宙の構造や膨張のようすに現れる間接的な影響を通じて性質を探ります。
5-1. 重力レンズとコズミックウェブ
ダークマターがある場所では、重力の効果で空間がへこみます。その結果、背後から来る光が曲げられ、銀河の像が伸びたり、輪になったり(アインシュタインリング)します。これが重力レンズ効果です。
銀河の形のわずかな歪みを統計的に集めると、ダークマターがどこにどれくらい分布しているか=宇宙の「見えない骨組み」(コズミックウェブ)をマッピングできます。
5-2. Euclid宇宙望遠鏡:ダークユニバースの3Dマップ
ESAのEuclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡は、ダークマターとダークエネルギーの性質を調べるために打ち上げられた「暗黒宇宙望遠鏡」です。
- 2023年に打ち上げ、太陽‐地球系L2点周辺で運用。
- 2030年ごろまでに、空の約3分の1に相当する最大級の3D宇宙地図を作成する計画。
- 数十億個の銀河の形と距離を測り、ダークマターの分布とダークエネルギーによる膨張史を精密に制約することが目的。
すでに公開された初期画像とデータだけでも、数百万〜数千万個の銀河が写し出され、コズミックウェブの糸状構造や新たな重力レンズ候補などが報告されています。
5-3. DESI・CMB観測と組み合わせる
ダークエネルギーの時間変化を探るうえでは、Euclidだけでなく、
- 銀河の分布とバリオン音響振動(BAO)を測るDESI(Dark Energy Spectroscopic Instrument)
- 宇宙背景放射(CMB)の揺らぎを高精度で測定したPlanck衛星以降のCMB実験
といったプロジェクトのデータも重要です。これらを組み合わせることで、
- 「宇宙の膨張史」
- 「大規模構造の成長のしかた」
が過去から現在まで一続きの物語として復元されつつあります。そこで標準モデルからの微妙なズレが見つかれば、ダークエネルギーの正体へのヒントになると期待されています。
6. これから10〜20年でどこまで分かりそうか
今後10〜20年で期待されるのは、「暗黒成分」の理解が次のように更新されることです。
- ダークマター:
- Euclidや次世代電波望遠鏡(SKAなど)のおかげで、コズミックウェブの構造がこれまでより高解像度で分かる。
- 重力レンズから見えるダークマターの「小さな塊」の性質が分かれば、「冷たいダークマター」なのか「やや温かい」のか、といった性質に制約がかかる。
- 直接検出実験・加速器のアップグレードで、一定の質量範囲の候補粒子は「ある・ない」がはっきりしてくる。
- ダークエネルギー:
- Euclid・DESIなどを総合した結果、ダークエネルギーの強さ(状態方程式のパラメータ)が、時間とともに変化しているかどうかが今よりずっと厳しくチェックされる。
- もし「完全な宇宙定数」からの有意なズレが確認されれば、物理学にとって標準理論を超える大ニュースになる。
一方で、「ダークマター粒子そのものを検出した」「ダークエネルギーの正体が分かった」といった決定打がすぐに出るとは限りません。むしろ、
- 候補の一部がふるい落とされる
- 観測との整合性を守れる理論だけが少しずつ残っていく
という形で、じわじわと可能性が絞られていくタイプの進展が続くと考えられます。
7. まとめ:宇宙像はどう変わる?
最後に、本記事の要点を整理します。
- 宇宙のエネルギー構成はおおよそ「普通の物質5%:ダークマター27%:ダークエネルギー68%」と見積もられており、95%が“見えない成分”だと考えられている。
- ダークマターは、銀河の回転、銀河団の重力レンズ、宇宙背景放射の揺らぎなどから存在が強く支持される見えない質量で、未知の粒子が有力候補。
- ダークエネルギーは、遠方超新星の観測から明らかになった宇宙の加速膨張を説明するために導入されたエネルギー成分で、その本質はなお不明。
- Euclid宇宙望遠鏡やDESIなどの大型プロジェクトは、ダークマターの分布とダークエネルギーの時間変化をこれまで以上に高精度で測ることを目指している。
- 今後10〜20年で、「どんな性質を持つダークマター・ダークエネルギーなら観測と矛盾しないか」が大きく絞り込まれ、宇宙像そのもののアップデートにつながる可能性が高い。
星や銀河といった「見えている宇宙」は、全体からするとごく一部の“表皮”でしかありません。
私たちがまだ直接見たことのないダークマターとダークエネルギーを理解することは、宇宙の95%を初めて“可視化”する作業と言ってもよいでしょう。
8. 関連記事(宇宙シリーズ)
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9. 出典・参考リンク
- NASA:Dark Matter(宇宙の成分比とダークマターの役割)
- NASA:Dark Energy(加速膨張とダークエネルギーの基礎)
- ESA:The dark Universe(暗黒宇宙とPlanckの成分比)
- Wikipedia:Dark matter/Dark energy(観測的証拠とΛCDMモデルの概要)
- ESA:Euclid mission/NASA・JPL:New Images From Euclid Mission Reveal Wide View of the Dark Universe(Euclidの目的と初期成果)
- DESI collaboration/各種プレスリリース(ダークエネルギーの時間変化を示唆する最新解析)

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