2025年現在も、国際宇宙ステーション(ISS)は地上約400kmの上空を周回しながら、世界各国の宇宙飛行士が交代で滞在しています。
しかしISSはいつまでも飛び続けられるわけではなく、2030年ごろに運用終了・大気圏再突入で廃棄する計画が国際的に合意されています。
では、そのあと人類はどこで宇宙実験や有人滞在を行うのか。
本記事では、
- ISSがなぜ退役するのか
- どのようにして地球に落とすのか
- その後を担う「商業宇宙ステーション」計画
- 日本や一般人への影響・チャンス
を、一般の宇宙ファン向けに整理します。
目次
- 1. 結論(要点)
- 2. ISSとは何か:役割とこれまでの歩み
- 3. なぜ退役するのか:老朽化・費用・安全性
- 4. ISSはどうやって「落とす」のか:デオービット計画
- 5. 次の主役は商業宇宙ステーション
- 6. 日本・JAXA・一般人への影響とチャンス
- 7. 今後10年のタイムラインと注目ポイント
- 8. まとめ
- 9. 関連記事(宇宙シリーズ)
- 10. 出典・参考リンク
1. 結論(要点)
最初に本記事のポイントをまとめると、次のとおりです。
- ISSは2020年代後半〜2030年ごろまで運用したのち、専用のデオービット機(制御落下用宇宙船)で南太平洋の無人海域に制御落下させる計画。
- ISSの後継として、アメリカの民間企業を中心に、
- Axiom Station
- Starlab
- Orbital Reef(オービタル・リーフ)
- NASAは「自前で新ステーションを作る」路線をやめ、民間ステーションを利用する顧客側に回る方針をとっている。
- 日本(JAXA)は、こうした商業ステーションに「実験・有人滞在の利用者として参加する」形が想定されており、企業・大学・個人向けの利用機会も増える見込み。
- 2030年代は、「国家主導の巨大ステーション」から「複数の民間ステーションが並立する時代」へと、大きく構図が変わる転換期になる。
2. ISSとは何か:役割とこれまでの歩み
ISSは、アメリカ・ロシア・日本・カナダ・欧州などが共同で運用する巨大な有人宇宙ステーションです。1998年に最初のモジュールが打ち上げられ、2000年からは有人滞在が途切れず続いています。
主な役割は次の3つです。
- 微小重力環境での科学実験・技術実証(素材・タンパク質結晶・燃焼・生命科学など)
- 有人長期滞在の医学・心理・運用ノウハウの蓄積(将来の月・火星探査の基盤)
- 国際協力の象徴(冷戦後の米露協力の象徴的プロジェクト)
日本は「きぼう」実験棟を提供し、多くの実験や超小型衛星放出などを通じて存在感を発揮してきました。
3. なぜ退役するのか:老朽化・費用・安全性
ISSは設計寿命を大きく超えて運用が続いており、主なモジュールは20年以上宇宙環境にさらされています。そのため、
- 構造物や配管の劣化
- 小さな空気漏れ(微小リーク)の増加
- 姿勢制御・電力系などの維持コストの高騰
といった問題が徐々に無視できなくなっています。
特にロシア製サービスモジュールなどでは、微小な亀裂による空気漏れがたびたび話題になっており、「安全に運用できる期限」が議論されています。技術的に修理しながら延命することは可能でも、費用対効果やリスクを考えた結果、2030年ごろで区切りをつける方針が採用されました。
同時に、ISSに年間数千億円規模で投じている予算を、「次世代の商業ステーションや月・火星ミッション」に振り向ける狙いもあります。
4. ISSはどうやって「落とす」のか:デオービット計画
ISSは質量400トン級の巨大構造物です。軌道上で放置すれば自然減衰で少しずつ高度は落ちますが、そのまま大気圏に突入させると、地上への落下位置をコントロールできず危険です。
そこで採られるのが制御落下(デオービット)という方法です。
- 専用の「デオービット機」(推進モジュール)をISSにドッキングさせる
- 何度かに分けて逆噴射し、高度を徐々に下げる
- 最終的に南太平洋の無人海域(通称ポイント・ネモ)付近に大気圏再突入させる
といった手順が想定されています。
このデオービット機は、アメリカの民間企業(SpaceX)が開発・提供する契約が結ばれており、今後詳細設計が進みます。巨大ステーションを安全に「海に葬る」ための、専用の宇宙船というわけです。
5. 次の主役は商業宇宙ステーション
ISSの後継をどうするかについて、NASAは「政府が新しい宇宙ステーションを作る」のではなく、民間企業が建設・運用するステーションを有料で利用するという戦略を取っています。
そのための枠組みが、NASAのCommercial LEO Destinations(CLD)プログラムです。CLDでは複数の企業コンソーシアムに設計・検討費用が出され、各社がそれぞれの宇宙ステーション構想を進めています。
5-1. Axiom Station(アクシオム・ステーション)
最も先行しているとされる計画の一つが、アメリカ・ヒューストンの企業Axiom SpaceによるAxiom Stationです。
- まずISSに接続する追加モジュールとして打ち上げられ、しばらくはISSの一部として運用される。
- その後、ISS退役前に切り離され、「Axiom Station」という独立した民間宇宙ステーションとして飛行を続ける。
- 研究・製造・観光など、民間利用を前提としたモジュールを順次増設する計画。
AxiomはすでにISS向けの「完全民間宇宙飛行」ミッション(Ax-1~)を複数回実施しており、宇宙旅行や企業・大学の研究サービスを提供しています。こうした経験を生かして、ステーションの商業利用モデルを作ろうとしています。
5-2. Starlab(スタ―ラボ)
もう一つの有力候補が、Voyager SpaceとAirbusなどが組むStarlab計画です。
- 大きな膨張式モジュール(インフレータブル・ハビタット)と金属製ノード、電力・推進モジュールから成る自由飛行型ステーション。
- 研究・製造・商業活動を統合した「宇宙の産業拠点」を目指す。
- ISS退役前の後半(2020年代末)に初号機打ち上げを目指している。
膨張式モジュールは打ち上げ時はコンパクトで、宇宙空間で広げることで大きな居住スペースを実現できるのが特長です。
5-3. Orbital Reef(オービタル・リーフ)ほか
Blue Origin(ブルーオリジン)とSierra Spaceなどが中心となるOrbital Reefは、「宇宙版ビジネスパーク」をコンセプトに掲げた自由飛行ステーションです。研究者・宇宙旅行者・企業・政府機関など、多様な利用者が入居する「宇宙の街」をイメージしています。
このほかにも、小型ステーションを想定したベンチャー企業の計画や、中国の天宮(ティエンゴン・宇宙ステーション)、ロシアが構想する独自ステーションなど、各国・各社の動きが活発化しています。
6. 日本・JAXA・一般人への影響とチャンス
ISS退役の影響は、日本にとっても小さくありません。
「きぼう」実験棟で行ってきた生命科学・材料・宇宙医学などの実験は、新たな場を探す必要があります。
ただしこれは、裏を返せば日本企業や大学が「民間ステーションの顧客」として主導権を取りにいくチャンスでもあります。
- JAXAが契約を結んだ民間ステーションで、日本の研究者・企業が継続的に実験を実施
- 宇宙スタートアップが独自の実験装置やミニモジュールを提供
- 宇宙旅行や長期滞在プログラムに日本人一般客が参加
といった形が現実味を帯びてきます。
ISS時代は「国家同士のプロジェクト」色が強かったのに対し、商業ステーション時代は企業・大学・自治体・個人投資家など、プレイヤーの裾野が一気に広がる可能性があります。
7. 今後10年のタイムラインと注目ポイント
最後に、ISSと商業ステーションをめぐる今後の大まかな流れを整理します(年度は目安)。
- 〜2027年:ISSでの実験・有人滞在が続く一方、Axiomなどの追加モジュール打ち上げが始まる。
- 2028〜2030年:
- Axiom Stationの一部モジュールがISSから切り離され、独立運用を開始。
- Starlab・Orbital Reefなどの初期ステーションモジュールが軌道投入される見込み。
- ISSの老朽化対策と並行して、デオービット機の試験・準備が進む。
- 2030年ごろ:
- ISSの運用終了。デオービット機による制御落下で南太平洋の無人海域へ。
- 商業宇宙ステーションが複数並立する「ポストISS時代」が本格化。
宇宙ファンとして注目したいポイントは、
- どの計画が「最初の本格運用ステーション」になるか
- 国際宇宙飛行士の選抜・養成が、どこまで民間側に開かれるか
- 日本企業・大学が、どのステーションとどのような提携を結ぶか
といった点です。
8. まとめ
ISSは、人類が宇宙で25年以上にわたり暮らし続けてきた「軌道上の家」です。しかし、老朽化と費用、次のステップへの投資という現実的な事情から、2030年ごろの退役が見据えられています。
その一方で、Axiom Station、Starlab、Orbital Reefなどの商業宇宙ステーション計画が立ち上がりつつあり、今後10年で「宇宙で働く・滞在する」スタイルは大きく変わっていきます。
ISS時代の宇宙開発は「国家プロジェクト」色が強いものでしたが、ポストISS時代は、より多くの企業・研究者・そして一般の人々が関わる開かれた宇宙経済圏へとシフトしていくでしょう。
9. 関連記事(宇宙シリーズ)
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10. 出典・参考リンク
- NASA:International Space Station Transition Plan(ISS運用終了とデオービット方針)
- NASA:Commercial Space Stations(Commercial LEO Destinationsプログラムと各計画概要)
- NASA:ISS Deorbit Analysis Summary(2030年の制御落下とポイント・ネモへの投入計画)
- Axiom Space:Axiom Station, Axiom Missionシリーズ公式情報
- Voyager Space / Airbus:Starlab公式リリース
- Blue Origin:Orbital Reef公式ページ
- 主要ニュース各社:ISS老朽化・空気漏れ問題、Ax-4延期報道 など
▶ 宇宙シリーズ(カテゴリー)一覧はこちら:
https://spacemaxum.com/category/宇宙/

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