2025年の宇宙は、年明けから見どころがぎっしり詰まっていました。 新年最初のしぶんぎ座流星群、火星の「小接近」、そして民間企業による月面着陸ミッションの連続。 締めくくりは、日本でも一部が見られた3月14日の皆既月食と、月面からとらえられた「地球食」です。
この記事では、「1年間の宇宙関連イベントを写真と共に振り返る」特集の中から、1〜3月の出来事をピックアップ。 それぞれの現象がどのような仕組みで起こり、最新の探査計画とどう関わっているのかを、やさしく整理していきます。
目次
- 1〜3月のハイライトをざっくり整理
- しぶんぎ座流星群:新年最初の流星ショー
- 火星小接近:赤い惑星をじっくり観察
- Blue Ghostの打ち上げと月面着陸
- Intuitive Machines「IM-2」月南極ミッション
- 3月14日皆既月食と「月から見た地球食」
- まとめ:1〜3月の出来事が示すもの
1〜3月のハイライトをざっくり整理
まずは、この3か月で何が起きていたのかを簡単に整理しておきます。
- 1月上旬:三大流星群のひとつ「しぶんぎ座流星群」が極大。2025年は月明かりの影響がほとんどない好条件で、多くの地域で観察が楽しめました。
- 1月12日:火星が地球に最接近。ただし今回は距離がやや遠い「小接近」で、2018年や2020年の大接近ほどの迫力ではないものの、冬の夜空で赤く輝く火星を楽しめるチャンスになりました。
- 1月15日:米Firefly Aerospaceの「Blue Ghost Mission 1」が打ち上げ。NASAのCLPS(商業月面輸送サービス)ミッションとして、月面へ科学機器を届ける初の本格フライトのひとつとなりました。
- 2月26日:Intuitive Machinesの月着陸機「IM-2」が打ち上げ。こちらもCLPSの一環で、月南極付近のモンス・マウトンを目指すフライトが始まりました。
- 3月14日:今年最初の皆既月食が発生。日本では「月出帯食」となり部分食のみ観測できましたが、同じタイミングで月面のBlue Ghostからは、地球が太陽を隠す「地球食」が撮影されました。
地球の地上から見える自然現象と、月面に降り立った探査機からのデータが、同じ時期に重なった点が2025年初頭の大きな特徴です。
しぶんぎ座流星群:新年最初の流星ショー
しぶんぎ座流星群とは何か
しぶんぎ座流星群は、ペルセウス座流星群・ふたご座流星群と並ぶ「三大流星群」のひとつです。 名前の由来となった「しぶんぎ座(四分儀座)」という星座は現在の星座表からは消えており、実際の放射点はりゅう座とうしかい座の境界あたりにあります。
流星群の母天体と考えられているのは、小惑星 2003 EH1。 かつての彗星が活動を弱めて小惑星のような見かけになった天体とされ、その軌道上に残されたダストが、毎年地球の軌道と交差するときに流星群として見える、というモデルが有力です。

活動の特徴と2025年の条件
しぶんぎ座流星群の特徴は、「ピークが非常に鋭い」ことです。 活動の中心となる数時間を外してしまうと、見える流星数がぐっと減ってしまいます。 その代わり、タイミングが合えば、1時間に数十個レベルの出現も期待できる流星群です。
2025年は極大時刻が日本の深夜〜明け方に当たり、しかも新月期で月明かりがほとんどありませんでした。 郊外〜山間部など暗い場所では、肉眼でも細かな星々とともに、淡い流れ星が空のあちこちに走る様子が見られたはずです。
新年早々、「今年も空を見上げよう」という気持ちにさせてくれる、宇宙からの挨拶のようなイベントと言えるでしょう。
火星小接近:赤い惑星をじっくり観察
なぜ「大接近の年」と「小接近の年」があるのか
火星が約2年2か月ごとに地球に接近することはよく知られていますが、毎回同じ距離まで近づくわけではありません。 地球と火星の公転軌道はきれいな円ではなく、少し楕円になっていて、太陽からの距離が近い場所(近日点)と遠い場所(遠日点)があるからです。
地球と火星が太陽をはさんでほぼ一直線に並ぶ配置を「衝」と呼びますが、火星が近日点付近で衝を迎えると、大接近になります。 逆に火星が遠日点側にいるときの衝は、地球から見た距離が離れた「小接近」となります。 2025年の接近はこの小接近に当たり、2018年などの大接近と比べると、見かけの直径はひと回り小さくなりました。

それでも面白い火星観察
小接近とはいえ、火星は依然として太陽系内の惑星の中では観察しやすいターゲットです。 望遠鏡を通して見ると、わずか数十秒角ほどの小さな円盤の中に、白い極冠や暗い模様がうっすらと浮かび上がります。 これは、二酸化炭素や水の氷でできた極冠や、玄武岩質の地表が露出した暗い地域と考えられています。
また、接近のたびに黄雲(ダストストーム)が発生して模様が見えにくくなることもあり、毎回違った表情を見せてくれるのも火星ならではです。 2025年の接近は「派手さ」こそ控えめでしたが、長期間にわたって赤い惑星を追いかけるには、十分面白いシーズンでした。
Blue Ghostの打ち上げと月面着陸
NASAのCLPS計画とは
Blue Ghost Mission 1は、NASAが進めるCLPS(Commercial Lunar Payload Services)の一プロジェクトです。 CLPSは、月面への物資輸送や科学機器の設置を、民間企業に委託する仕組みで、 「NASAは何を測りたいかを決める」「輸送の方法や着陸機は民間が設計する」という役割分担が特徴です。
これにより、政府機関だけでは実現しづらかった頻度の高い月面ミッションや、新しい技術の試行がしやすくなり、 将来の有人月面基地や月資源利用の基盤づくりにもつながると期待されています。

Blue Ghost Mission 1の内容と成果
Blue Ghostは、テキサスに拠点を置くFirefly Aerospaceが開発した月着陸機です。 2025年1月15日にFalcon 9ロケットで打ち上げられ、地球と月の間をゆっくりと航行したのち、 3月2日に月のマーレ・クリーシウム(静かな海)内、モンス・ラトレイユ近くに軟着陸しました。
搭載されていたペイロードはおよそ10件。 月面の熱環境や土壌の性質、放射線環境を調べるセンサーや、 将来の探査機に使う通信・航法技術を試す装置などが含まれていました。 Blue Ghostが撮影した月面の画像や、地球が太陽を隠す「地球食」の映像は、 月面から見た宇宙の姿を具体的にイメージさせてくれる貴重なデータになっています。
民間企業のランダーが、科学的にも技術的にも意味のある成果を持ち帰ったという点で、 Blue Ghostは「月面探査の商業化時代」を象徴するミッションと言えるでしょう。
Intuitive Machines「IM-2」月南極ミッション
月南極が注目される理由
月南極域は、近年もっとも注目されている探査ターゲットのひとつです。 クレーターの内部など、太陽光がほとんど差し込まない「永久影」と呼ばれる領域には、 水の氷が長期間保存されている可能性が高いと考えられています。
水は、人間の生活用水であると同時に、電気分解すればロケット燃料の原料にもなります。 つまり、南極域の氷を利用できれば、月面基地や火星探査に向けた「宇宙ガソリンスタンド」のような拠点に発展しうるのです。 そのため各国が、南極の地形や環境、氷の分布を詳しく知ろうと競い合っています。

IM-2が目指したもの
Intuitive MachinesのIM-2ミッションは、この月南極域の中でもモンス・マウトンと呼ばれる高地付近を目標にしました。 搭載されたNova-Cランダー「Athena」には、表面付近の氷の有無や組成を調べるためのドリル、質量分析計、カメラなどが積み込まれています。
着陸後、機体が横倒しになるトラブルにより、観測時間は想定より短くなりましたが、 南極近くでの着陸・通信・データ取得が実際に行われた意義は大きく、 次世代ミッションに向けて貴重な経験が蓄積されました。 Blue GhostとIM-2を並べて見ると、 「月の赤道付近」と「南極付近」という異なる環境を、短期間で民間探査機が相次いで訪れた一年だったことが分かります。
3月14日皆既月食と「月から見た地球食」
皆既月食の仕組みと今回の見え方
月食は、太陽・地球・月がほぼ一直線に並び、月が地球の影の中を通過するときに起こります。 そのうち、月全体が地球の「本影」と呼ばれる濃い影にすっぽり入る現象が皆既月食です。
皆既中の月が赤銅色に見えるのは、地球の大気を通過した太陽光の一部が、 レンズのように屈折して、影の中に差し込んでいるためです。 地球の大気に含まれる塵や雲の量によって、赤みの強さが変わります。
2025年3月14日の皆既月食では、日本からは月が地平線の下にある時間帯に皆既状態が進行し、 月が昇ってきたときにはすでに部分食の後半という「月出帯食」の形になりました。 それでも、条件の良い地域では、やや赤みを残した欠けた月が地平線から顔を出し、 時間とともに丸い満月へ戻っていく様子を観察することができました。

月面から見れば「地球食」になる
同じ現象を、もし月の地表から眺めたらどう見えるでしょうか。 月に立つ観測者から見ると、今度は太陽が地球の背後に隠れる日食として見えます。 地球が太陽の前を通過し、その周囲に太陽の光のリングがのぞく光景は、「地球食」と呼ばれます。
Blue Ghostは、3月2日の着陸後、この3月14日のタイミングで地球食の観測に成功しました。 地球の大気を通過した光がリング状に輝き、その内側には黒くシルエットになった地球本体が見える映像は、 地球側から眺めた皆既月食の写真と対になる、非常に象徴的なデータです。
地球からは「月が暗くなる皆既月食」、月からは「太陽が地球に隠される地球食」。 同じ幾何学配置でも、見る場所が変われば現象の名前も印象も変わるという、宇宙のスケール感を実感させてくれる出来事でした。

まとめ:1〜3月の出来事が示すもの
2025年の1〜3月を振り返ると、
- しぶんぎ座流星群と火星小接近という「地球から見上げる天体ショー」
- Blue GhostとIM-2という「月面に降り立つ民間探査機」
- 皆既月食と地球食という「地球と月の両側から見た同じ現象」
が、時間的にも内容的にも濃密に重なっていたことが分かります。
これらはすべて、「宇宙は遠いけれど、確かに私たちの目の前で動いている」という事実の別々の側面です。 地上から夜空を見上げるだけでなく、その空の向こう側に実際に探査機が降り立ち、 そこで撮られた画像やデータがほぼリアルタイムで共有される——そんな時代に私たちは生きています。
1年の始まりを飾ったこれらのイベントを押さえておくと、 残りの季節に登場する流星群や惑星、さらには次の月探査ニュースも、ぐっと楽しく感じられるはずです。
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