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小惑星衝突のリスクと地球防衛入門【DART・Hera・NEO Surveyor】

「隕石が地球に衝突して人類滅亡」――映画やマンガではおなじみですが、現実の宇宙ではどの程度あり得るのでしょうか。
近年、NASAやESAは惑星防衛(プラネタリーディフェンス)を本格的なミッションとして進めており、2022年には史上初の「小惑星の軌道変更実験」DARTにも成功しました。

この記事では、一般の宇宙好き向けに、

  • 小惑星衝突リスクの「現実的な大きさ」
  • いま、どれくらい危ない小惑星が見つかっているのか
  • DART・Hera・NEO Surveyor など最新の地球防衛ミッション
  • もし将来「本当に危ない小惑星」を見つけたらどうするのか

を、やさしく整理して解説します。

目次

1. 結論(要点)

  • 地球近傍の小惑星はすでに4万個以上見つかっており、そのうち約2,000個が「潜在的に危険な小惑星(PHA)」に分類されています。
  • 直径1km級の「文明レベルに影響し得る」NEOは90%以上がすでに発見済みで、残りは数十個程度と見積もられています。
  • 一方で、「都市を壊滅させる」可能性のある直径140m級は、まだ半分弱しか見つかっておらず、探査の加速が急務です。
  • 2022年のDARTミッションは、小惑星ディモルフォスの公転周期を32分短くすることに成功し、「キネティック・インパクター方式で軌道を変えられる」ことを初めて実証しました。
  • ESAのHera(2024打ち上げ)やNASAの赤外宇宙望遠鏡NEO Surveyor(2027年以降打ち上げ予定)は、今後10〜20年の地球防衛の要となるミッションです。

2. 小惑星衝突はどの程度「現実のリスク」なのか

地球に大小さまざまな天体が落ちてくるのは、宇宙の歴史では日常茶飯事です。
ただし、サイズによって影響と頻度は大きく変わります。

  • 数メートル級:大気圏でほぼ燃え尽きる(しばしば流星や火球として観測)。
  • 十メートル級:2013年チェリャビンスク隕石のように、上空で爆発し局所的な被害を生むことがある。
  • 百メートル級:都市〜地域レベルで壊滅的被害を与え得る(これが「city-killer」と呼ばれるクラス)。
  • 1km級以上:全球規模の気候変動を引き起こし、文明に深刻な影響を与える可能性がある。

現時点で、「近い将来に地球へ衝突が確定している大型小惑星」は見つかっていません。
しかし、最近でも2024 YR4のように一時的に衝突確率が数%に達し、国際的な警戒レベルが上がった事例があり、「見つけること」「軌道を正確に求めること」の重要性が再確認されています。

3. いま、どれくらいの小惑星が見つかっているのか

NASAのPlanetary Defense Coordination Office(PDCO)は、毎月「Near-Earth Asteroids」の統計を更新しています。2025年9月時点では、概ね次のような数字が示されています。

  • 39,000個超:発見済みの地球近傍小惑星(NEA)総数
  • 約870個:直径1km以上と推定されるNEA
  • 約11,000個:直径140m以上と推定されるNEA
  • 残り約14,000個:140m以上でまだ未発見と推定されるNEA

「1km級はほぼ見つかったが、140m級はまだ半分程度」という状況です。
このギャップを埋めるために、次世代の観測プロジェクトが動いています。

4. DARTとHera:世界初の「小惑星の軌道変更実験」

4-1. DART:運動量をぶつけて軌道を変える

DART(Double Asteroid Redirection Test)は、NASAが2022年に実施した史上初の惑星防衛実証ミッションです。

  • 標的:地球近傍小惑星ディディモスの衛星「ディモルフォス」
  • 方法:自動誘導で小惑星に突入(キネティック・インパクター)
  • 結果:ディモルフォスの公転周期を11時間55分 → 11時間23分へ、32分短縮

この軌道変化は、事前の予想よりも大きく、衝突によって吹き飛ばされた破片(イジェクタ)が追加の「反動」を与えたことも確認されています。

4-2. Hera:DARTの「答え合わせ」をするヨーロッパのミッション

ESAのHeraは、DARTの衝突現場を詳しく調べるための探査機です。2024年10月に打ち上げられ、2026年11月にディディモス系へ到着予定です。

  • DARTが残したクレーターの大きさや形状
  • ディモルフォスの内部構造(岩塊か、ルーズな「がれき山」か)
  • 軌道変化の量と方向の高精度測定

などを調べることで、「どのくらいの質量・速度の衝突で、どれくらい軌道を変えられるのか」というスケール則を確立することが期待されています。これは、将来本当に危険な小惑星をそらすときの設計指針になります。

5. NEO Surveyor・Rubin:危険小惑星を見逃さないための次世代サーベイ

5-1. NEO Surveyor:赤外線で暗い小惑星を炙り出す

NEO Surveyorは、NASAが計画している地球防衛専用の赤外線宇宙望遠鏡です。2027年以降に打ち上げ予定で、太陽—地球のL1付近から地球近傍小惑星を探査します。

  • 赤外線(4〜10μm)で小惑星の熱放射を直接検出
  • 可視光で暗く見えにくい「黒っぽい小惑星」も見つけやすい
  • 140m以上のNEOの90%をカタログ化する、という米議会の目標達成に向けた切り札とされている

5-2. Vera C. Rubin天文台:ついでにNEOも大量発見

チリで試験観測を始めたVera C. Rubin天文台は、本来は宇宙全体を「動画のように」撮影するLSST(広視野サーベイ)が目的ですが、その副産物として大量の新小惑星も見つかると期待されています。初期試験だけで数時間の観測から2,000個以上の新小惑星が検出され、そのうちいくつかは新しいNEAでした。

地上のRubin、宇宙のNEO Surveyorという二枚看板がそろうことで、小惑星の見逃し率は今後10〜20年で大きく下がる見込みです。

6. 軌道をそらす方法いろいろ:キネティック・インパクターからグラビティトラクターまで

小惑星が本当に地球に向かっていることが分かったとき、どのような方法で軌道を変えられるのでしょうか。代表的な案を簡単に整理します。

方式概要特徴
キネティック・インパクター探査機を高速度で衝突させ、運動量をぶつけて軌道を変える。DARTで実証済み。要警戒時間:数年以上。
グラビティトラクター小惑星近くに「重い宇宙機」を長時間ホバリングさせ、万有引力でじわじわ引っ張る。最も制御性が高いが、長時間・要先行探知。
イオンビーム偏向宇宙機から小惑星に向けてイオンビームを吹き付け、「反作用」で少しずつ軌道を変える。技術難易度は高いが、細かな調整が可能。
核爆発装置近くで爆発させて表面を蒸発させ、その反動で軌道を変える(または破壊)。最終手段。政治・法的・技術リスクが大きく、慎重な議論が必要。

NASAの惑星防衛戦略では、これらの方式のうち、キネティック・インパクターとグラビティトラクターなどの「スロープッシュ技術」を優先して検討することが明記されています。

7. 危ない小惑星を見つけたら何が起きるのか

もし、将来「数十年以内に地球に衝突する可能性がある」小惑星が見つかった場合、流れとしては次のようになります。

  1. 軌道の精密測定:世界中の観測網が追跡し、衝突確率と時期・場所の不確実性を減らす。
  2. 国際ネットワークへの通報:IAWN(国際小惑星警報ネットワーク)やSMPAGなど、国際的な枠組みで情報共有と対策検討が行われる。
  3. ミッション案の検討:警戒時間(何年先か)、小惑星のサイズ・性質に応じて、キネティック・インパクターなのか、グラビティトラクターなのか、あるいは核装置も含めるのかを比較検討。
  4. 政治的決定と国際協力:どの国が主導し、どの国が費用とリスクを負うのかという政治問題も発生するため、国連レベルの議論が必要になります。

技術面ではDARTの成功で一歩前進しましたが、「本番で実行するための国際ルールや政治プロセス」はまだ途上というのが正直なところです。

8. まとめ:地球防衛の現状と今後

小惑星衝突は、私たちの一生スケールで見れば非常に確率の低い災害です。しかし、ひとたび当たれば被害は天文学的になる可能性があります。だからこそ、

  • まず見つけること(NEO Surveyor・Rubin・既存サーベイ)
  • 次にそらせるかどうかを実証すること(DART・Heraなど)
  • そして国際的な意思決定の枠組みを整えること

の3本柱が重要になっています。

現時点で「〇年後に確実に当たる」と分かっている大型小惑星はありませんが、2024 YR4のケースのように、「見つけた直後は危険度が高く見えて、追跡でリスクが下がる」事例は今後も続くはずです。そうしたニュースを見かけたとき、

  • どのサイズの小惑星なのか
  • 衝突確率はどの程度なのか
  • 警戒時間(何年先の話か)はどれくらいか

といったポイントを押さえておくと、惑星防衛に関する情報を冷静に読み解けるようになります。

「地球を守る」ミッションは、SFの世界の話ではなく、すでに現実の宇宙開発の一部になりつつあります。今後10〜20年は、その基礎を固めるうえで非常に重要な時期と言えるでしょう。

9. 関連記事(宇宙シリーズ)

10. 出典・参考リンク

  • NASA Science「Near-Earth Asteroids as of September 2025」:NEA総数・サイズ別個数の最新統計。
  • NASA/JPL CNEOS「Discovery Statistics」「Near-Earth object」:NEO・PHAの定義と発見状況。
  • NASA News「NASA Confirms DART Mission Impact Changed Asteroid’s Motion in Space」ほか:DARTがディモルフォスの公転周期を32分短縮した結果。
  • ESA/Hera公式ページ・Planetary Society記事:Heraミッション概要と2026年11月到着予定。
  • NASA/JPL「NEO Surveyor」ほか:NEO Surveyorミッションと140m級NEO 90%検出目標。
  • Planetary Society「Asteroid deflection techniques to save the Earth」、NASA Planetary Defense Strategyなど:キネティック・インパクター/グラビティトラクターなどの方式比較。
  • 2024 YR4に関する各種ニュース:一時的な衝突リスクと、その後のリスク低下。
  • Vera C. Rubin Observatory関連記事:初期観測で2,000個以上の新小惑星と複数のNEAを発見。
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